なぜバリ島に「探究型スクール」が多いのか?脳科学が明かす"プロジェクト学習"のすごい効果
- Takahashi Reina
- 1 日前
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最近、教育の世界で「プロジェクトベース学習(PBL)」という言葉をよく耳にするようになりました。特にここバリ島では、この教育法を取り入れたインターナショナルスクールが世界中から注目を集めています。

Googleの創業者やAmazonの創業者といったイノベーターたちが、その幼少期にPBLと親和性の高い教育を受けていたことも知られています。
では、このプロジェクトベース学習とは一体何なのでしょうか?そして、なぜバリ島でこれほどまでに支持されているのでしょうか?その核心と理由に迫ります。
料理本を読むだけ?キッチンに立つ?PBLの核心
従来の教育が、先生が黒板に書いた知識を生徒がノートに写し、暗記する「料理本を読む」学習だとすれば、プロジェクトベース学習は、生徒自らが「実際にキッチンに立って料理を作る」ような学習法です。
PBLとは、一言でいえば「答えのない問い」にチームで挑む学習法と言えるでしょう。
例えば、「校庭に流れる川の水をキレイにするにはどうすればいい?」といった、現実的で複雑なテーマがプロジェクトとして与えられます。
子どもたちは、川の水を汚している原因を科学的に分析し(理科)、解決策の予算を計算し(算数)、地域の人に協力をお願いする手紙を書き(国語)、プレゼンテーションで発表する(表現力)。
このように、教科書の知識をバラバラに学ぶのではなく、プロジェクトという一つの目的のために、様々な知識やスキルを総動員するのが特徴です。これによって、知識の暗記だけでは決して身につかない「実践的な問題解決能力」や「創造性」といった"21世紀型スキル"が育まれていくのです。
この学習法がなぜ効果的なのか、科学的な根拠は大きく2つあります。
1. 脳が「忘れられない」記憶を作る 🧠
PBLのプロセスは、脳科学的に見ても非常に効率的です。
深い情報処理: 「なぜ?」「どうやって?」と考えることで、知識が脳内の様々な情報と結びつき、忘れにくくなります。
文脈と感情: 「ゴミを減らしたい」というストーリーや、「できた!」という達成感は、記憶を司る海馬や扁桃体を刺激し、記憶を強力に定着させます。
想起練習: プロジェクト中に何度も「あれ、どうだったっけ?」と情報を思い出す行為自体が、記憶を強化する最高のトレーニングになります。
単なる丸暗記ではなく、体験を通して学んだ知識だからこそ、テストが終わったら忘れてしまうような「死んだ知識」ではなく、いつでも使える「生きた知恵」になるのです。
2. 未来を生き抜く「実践的スキル」が身につく 🤝
PBLで得られるのは知識だけではありません。むしろ、これからの社会で不可欠な21世紀型スキルを育むことこそ、最大の目的です。
実行機能: 目標を立て、計画し、時間を管理する力。
コラボレーション能力: 他人と協力し、議論し、教え合う力。
創造的問題解決能力: 予期せぬ問題に粘り強く取り組む力。
困難なプロジェクトを仲間とやり遂げた経験は、「自分ならできる」という自己効力感を育み、子どもたちが将来、未知の課題に挑戦するための大きな自信となります。
プロジェクトベース学習(PBL)が学習効果を高めるという科学的根拠は、認知科学と神経科学の分野で広く支持されています。
PBLは、単なる知識の暗記ではなく、脳が情報を処理、関連付け、定着させるための最も効率的なメカニズムを活用します。具体的には、学習内容を「自分ごと」として捉え、能動的に取り組むことで、脳内の神経回路(ニューラルネットワーク)が強固に形成され、結果として長期的な記憶と応用力(転移可能なスキル)が身につきます。
先日、MITの教授である友人から、とても素敵な話を聞きました。彼のお子さんは、プロジェクトベース学習(PBL)の学校に通っていたそうです。そこで才能を開花させ、なんと2年も飛び級。でも、ここからが最高なんです。その子は「やっぱり高校生活を仲間たちと満喫したい」と、自分の意思でまた2年間、高校に戻ることを決めたのだとか。友人は、その選択を本当に嬉しそうに話してくれました。彼自身も、「PBLが高度な思考力や自律的な問題解決能力を育む、素晴らしい証明になったよ」と語っていました。成績だけではない、"生きる力"そのものが育まれているんですね。
なぜバリ島でPBLスクールが盛んなのか?
世界中にPBLを導入する学校はありますが、なぜ特にバリ島に個性的なスクールが集まっているのでしょうか。そこには、この島ならではの3つの背景があるようです。
国際的なコミュニティの存在 世界中から集まった起業家やアーティストたちが、画一的な教育ではなく、子どもの個性を伸ばすオルタナティブな教育を求めたことが、大きな原動力になったと考えられます。
"生きた教材"としての自然と文化 豊かな熱帯雨林や独自の文化は、環境問題やサステナビリティ(持続可能性)を学ぶ上で最高の「生きた教材」となります。机上の空論ではない、リアルな体験がここにはあります。
グリーンスクールの成功 2008年に設立され、竹の校舎とサステナビリティ教育で世界を驚かせた「Green School Bali」。この学校の成功が、バリ島を「新しい教育の実験場」として世界に知らしめ、多くの教育者が集まるきっかけを作ったのでしょう。

!注意点・例外
指導者の重要性: PBLの成否は、指導者(教師)のスキルに大きく依存します。教師は知識を教えるだけでなく、生徒の探求を導き、適切な問いを投げかけるファシリテーターとしての役割が求められます。
評価の難しさ: 知識の習得度を測るペーパーテストとは異なり、思考力、協働性、創造性といったスキルを客観的に評価するための基準設計が難しいという課題があります。
基礎知識の必要性: 全く知識がない状態でプロジェクトを始めても、効果的な学習は望めません。ある程度の基礎学力があって初めて、PBLの効果が最大化されます。
まとめ
プロジェクトベース学習は、単なる教育トレンドではありません。変化の激しい未来を生きる子どもたちにとって不可欠な、学び方を学ぶ力と実践する力を育むための、科学的根拠に裏打ちされた教育哲学です。
そしてバリ島は、その豊かな自然、深い文化、そして未来志向のグローバルな人々が集まるという奇跡的な環境によって、PBLという教育の可能性を最大限に引き出す、世界最先端の実験場となっているのです。



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